尿路変向術について
膀胱癌に対する膀胱全摘除術や直腸癌に対する直腸切断術は、尿や便の出る出口を新たに作らなければなりません。患者さんにとってはボディーイメージが変わり、本当に辛いことだと認識しています。ただ、そのために萎縮治療になり、手遅れの進行癌に至ることがあってはならないことと思っています。浸潤性膀胱癌の治療成績が20年前と大差がない原因の一つに膀胱全摘除術を選択するタイミングが悪いことも挙げられるのではないかと感じています。ただ、医師も人の子であり、迷う症例(尿細胞診では癌細胞はあるのだが、同定出来ない場合など)では膀胱全摘に踏み切れず後手に回ることが現実的にあります。
膀胱を摘出した後には,新たに尿の出口を手術により作らなければなりません.この手術を尿路変向術といいます.尿路変向にはいろいろな種類があり,それぞれ利点と欠点があります.年齢,病気の程度,全身状態などを考慮して決定する必要があります.
1.尿管皮膚瘻
利点:
・一番簡単な尿路変向で身体への負担が一番軽い手術.
欠点:
・外とが直接つながっているので,腎臓の細菌感染が起きやすい.(腎盂腎炎になりやすい.)
・管が狭くならないように,尿管の中にステントという管を留置しておく必要があります.この管は定期的に交換する必要があります.
・尿の出口(ストーマと言います)に集尿器をつけなければなりません.
2.回腸導管
利点:
・最も多い尿路変向で手術成績も安定している.
・尿管皮膚瘻と比べて腎盂腎炎になりにくい.
・尿管ステントの必要がない.
欠点:
・腸(約15cm)を使うので手術が大きくなり,術後の食事開始が遅い.また腸閉塞になる可能性がある.
・ストーマに集尿器をつけなければなりません.
3.新膀胱
利点:
・お腹にストーマがなく,尿道よりの排尿が可能.手術前と見た目は変わらない. ただし,残尿が多い場合は自己導尿必要.
欠点:
・腸(約60cm)を使うので手術が大きくなり,術後の食事開始が遅い.また腸閉塞,新膀胱の縫合不全など術後の合併症が増える可能性がある.
・尿道を残すので,腫瘍の尿道再発があり得る.
最近では、技術も向上し新膀胱造設術を積極的に選択することが多い傾向です。
今年のUrological
Nursing 1月号には、鳥取県立中央病院の看護師さんによる新膀胱の手術見学記が掲載されました。その際、術者コメントとして掲載された一文を併記します。
Urological Nursing 泌尿器ケア1月号 掲載
術者から・・・
膀胱全摘除術と新膀胱造設術は泌尿器科手術の中でも、比較的手術時間も長く浸襲も大きい手術です。本症例は、64歳男性で頻尿を主訴に受診され、尿細胞診異常で偶然に発見された膀胱癌です。腫瘍は主に膀胱左壁にあり、術前の病理組織学的診断は筋層浸潤を認める浸潤性膀胱癌であったため根治的膀胱全摘除術の適応と考えました。尿路変向術には、尿路ストマを必要とする1)尿失禁制尿路変向術(尿管皮膚ろう、回腸導管など)と、必要としない2)尿禁制尿路変向術(新膀胱造設術など)があります。本症例は、日常的にスポーツを楽しんでいる患者様でボディーイメージが損なわれない新膀胱造設術を希望されました。また、勃起機能の温存も希望されたため、腫瘍側でない右側の陰茎海綿体神経温存を試みております。
本手術は1)右神経温存膀胱全摘除術 2)リンパ節郭清 3)新膀胱造設術の3つのパートに分かれますが、膀胱全摘除術は癌の根治性に注意しながら出血を少なく手際よく施行することが手術時間の短縮につながると考えています。一方、新膀胱造設術においては、時間が掛かっても丁寧に縫い上げることが術後のトラブルを少なくすると考えています。新膀胱造設術にはいろいろな種類がありますが、今回はStuder法を選択しました。本症例では 膀胱全摘術に90分、開腹から閉創までが6時間、出血量は1500mlであり、用意していた自己血1200mlで足りており、大きな問題はなかったと考えています。
術後の合併症として 1)腸閉塞 2)新膀胱からの尿漏などが挙げられます。尿漏は骨盤膿瘍に発展することがあるので避けなければならない合併症と考えています。よって、術後の管理として、新膀胱に留置しているカテーテル、尿管ステントの閉塞に注意する必要があります。カテーテル類の閉塞が尿漏や腎盂腎炎の原因となるからです。また、新膀胱に留置している尿道カテーテルは毎日洗浄して腸粘液で閉塞しないように管理する必要があります。
新膀胱造設術は 症例を選べばQOLも良く患者様にも喜ばれる手術です。カテーテル類は多く術後管理もやや煩雑でありますが、注意深い看護力によって患者様の周術期トラブルがなく快適にすごせるようにと願っております。