医者の特性として薬を新しく処方することは得意だが、薬を減らしていくことは不得意のような気がしています。もちろん その背景には、患者さんの訴えに応えようとするがため、腰が痛いと言えばパップ剤や鎮痛剤、眠れないと言われれば睡眠薬、便が出ないと言えば便秘薬、と言う具合に増えてしまう運命があります。たまに、本当に必要としている薬なのか患者さんに問うことや、医師自身も自問自答することが大事だと思っています。中には医師にNoと言えず、処方して貰ってはいるが内服せず自宅に貯め込んでいる患者さんもいたりします。もちろん透析患者さんの場合のように、降圧剤、骨代謝の薬、貧血の薬、かゆみ止め、など6〜8種類の薬を最低限必要としている事もあるので一概には言えませんが、処方薬の中でも主役と脇役があったりして脇役の薬は時々見直して整理する必要があるように思います。
高脂血症の治療薬であるスタチン系薬剤は、1989年に日本人が創薬した画期的な薬で世界中で投与されています。ご存じのように高脂血症は、動脈硬化・高血圧の原因となり脳卒中や心筋梗塞に至る基礎疾患でもあります。本邦では死因第1位は"がん"ですが、2位と3位である"心疾患"と"脳卒中"を合わせると動脈硬化関連疾患が"がん"を抜いて1位になります。その観点からは高脂血症治療は積極的にするべきだと思いますが、時に超高齢者に対して高脂血症治療薬を漫然と投与されているケースに出会います。果たして必要な薬なのか?製薬会社に踊らせていないか?などと思っていました。
調べてみると、高齢者に対する高脂血症治療の有用性については諸説あります。一流の医学誌Lancetには70〜82歳の高齢者を対象とした追跡調査では心筋梗塞などの冠動脈疾患死を24%低下させたと報告されている(2002年)。本邦の研究としては、高脂血症治療薬は75歳以上の後期高齢者に対しても十分に冠動脈疾患死を抑制していると報告されている。一方、前期高齢者(75歳以下)には治療の意義はあるが、後期高齢者の治療意義はあきらかではない。加齢による腎機能低下などもあり薬物副作用が出現しやすいから注意が必要であるとされている。当クリニックでも冠動脈疾患、糖尿病などを勘案して判断し、年齢に考慮しながら処方すべきだと心得ている。
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