血液検査でPSA (前立腺特異抗原) という物質が高い 値の時は肥大症や炎症以外に前立腺の腫瘍が疑われます。直腸診 (図1) や超音波検査、MRIなども前立腺の腫瘍を診断する手段です。しかしいずれの検査も、 疑いにとどまるだけで確定には至りません。前立腺腫瘍の診断を確定する唯一の方法は、前立腺の細胞を採取する前立腺生検です。
図1.
実際の生検の方法
仙骨麻酔 (尾てい骨の近傍に麻酔を注射針にて注入する方法)を行った後に 肛門から超音波検査のプローブ(図2)をいれ、まず前立腺の内部の様子を調べます(図3)。その後、直腸内腔から直径約 1.5mmの針を前立腺へ向かって10〜12箇所刺し前立腺の組織を採取します。生検自体は約3〜4分で終了します。
図3.
生検後の合併症
1) 血尿 (約30%)
前立腺は膀胱の出口にあるため、検査後に血尿となることがあります。通常は2、3日で肉眼的には消失します。しかし血尿が強い場合は、入院紹介が必要となる場合があります。また狭心症、脳梗塞などのため抗凝固剤 (血液を固まりにくくするお薬) が投与されている場合は、薬の内服を7日間以上中止する必要があります。受診時には必ず現在飲んでいる 薬を持参してください。抗凝固薬、抗血小板薬としてよく使用されるのは、バファリン、パナルジン、 パナピジン、ワーファリン、エパデールなどです。これらの薬を内服されている方は申し出てください。
2) 発熱 (約1〜3%)
生検の時は大便の通り道から針を刺しますので細菌を前立腺へ押し込み前立腺炎を引き起こす危険があります。そのため検査当日から数日間は抗生物質を投与します。 発熱した場合は、入院紹介が必要となる場合があります。
3) 尿道出血・血精液症
検査後下着に血が付いたり、尿の出始めに血が出たりすることがあリます。また精液に血が混じり、赤色から茶褐色になることがあります。これらの症状がしばらく続くこともありますが、通常 健康への影響は有りません。
4)尿閉
前立腺の大きい人は、生検により一過性に尿が出ない(尿閉)になることがあります。その場合は数日間は尿道留置カテーテルという管を尿道に入れておかなくてはなりません。
生検前後の注意点
生検日の朝にはなるべく排便してきてください。便秘などにて排便の自信がない方には便秘薬を処方いたしますので、申し出てください。
生検後には、院内で1〜3時間安静にして貰います。自動車を運転して来られた場合には、十分に休んでから帰宅して貰う必要があります
生検によって前立腺は炎症を起こします。そのため以下のことを守ってください。
アルコールは1週間控えてください。アルコールは血管を拡張する作用があり前立腺の炎症を助長する事があります。自転車・バイクも1週間は乗らないでください。機械的に炎症を増悪させることがあります。また長時間 (2時間以上) 座ったままでいることも好ましくありません。細菌感染予防のため、4-7日間程度、抗生物質を服用していただきます。
生検の結果と陰性の場合の注意
生検の結果は2週間前後で判明します。結果については院長より説明があります。
腫瘍 (癌) が検出された場合は、病気の進展度 (広がり) を検査した上で、最も適当と思われる 治療法の相談をご本人・ご家族を交えて行っています。
腫瘍 (癌) が検出されなかった場合は、ほぼ大丈夫と判断されます。しかし病気が存在しているのに針が当たらなかったり、非常に小さな病巣で発見できないこともあります。病気が見つからなかった方でも、定期的 (3ヶ月から1年ごと) に血液検査などを受けることをおすすめします。その後もやはり腫瘍が疑わしい場合は、再度生検をおすすめする場合があります。